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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「大変ですと? ……」彼にも、さすがにギクとした色がある。
「な、なんといってよいやら分りませぬ。とにかく、すぐ時雨堂へお戻りなすって下さいまし」
「して、何ぞ異変でも起こりましたか。帰ることはすぐにも帰りますゆえ、まず落ちついて、その仔細をお聞かせ下さい」
こういったのは、使いの者よりは、自分自身を落ちつかせるためだった。
「弦之丞様、驚いちゃいけません。実はこうなんでございます……。もう少し前に、凄い雷が鳴りましたろう。あの時師匠の半斎が、ちょうど厠に入っておりましたが、出てくると私たちへ、今の雷はたしかに時雨堂の近くへ落ちたらしい、もし誰か怪我でもありゃしないか、すぐに見舞に行ってみろといわれましたんで、まだ少し降っている中を、まっしぐらに駈けだしました。行ってみると、さア一大事です。どこの奴だか知りませんが、真っ黒に覆面した侍が大勢で、二挺の駕を引っ舁ぎ、時雨堂から一散に関の裏道へ登ってゆくじゃアありませんか」
「や、大勢の侍が? ……」
「二十人余りの人数でしたよ、何しろこいつア大変だと、あわてて中へ飛びこんでみると、雷が落ちたどころじゃありません……、銀五郎さんをよんでも返辞はなし、多市さんをよんでもウンもスウもありません。