Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「まア、あなたは!」
びっくりしたような声である。
「や、お米殿であったか。最前から、どうも見たようなと思いだされておりました」
「私はまたちっとも存じませんで――」お米の頬には白粉の下から桃色の血がボッとしてきた。蝋人形の冷たい顔に灯が映えたようである。
「こんな所でお目にかかろうとは不思議なご縁でございます……私はまさかあなた様とは思いませんでしたの」言葉の辻褄を失っているのは、お米の胸に、川長で初めて会った時のことや、関の山で死のうとまでした思い出が、いっぺんにこぐらかッているのであろう。
川長のお米にそれほど思われているとは、夢にも知らなければ、また素ぶりにも気づかない弦之丞は、心もち天蓋の頭を下げて慇懃に、
「ここでお目にかかったのを倖いに、何よりはこの夏の頃お世話になったお礼を申し上げねばならぬ。殊に大津の半斎殿には、きついご迷惑をかけまして、蔭ながらお気の毒に存じている」
「いいえ、そのご挨拶は、万吉というお人が、あれから後江戸へ行く途中に寄って下さいまして、いろいろお話も伺いました。その時の様子では、弦之丞様がまた大阪へお戻りになったとやら……実は心の中だけで、もう一度ぐらいは、キットどこかで会いはしまいかと思っておりましたら。