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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
広い屋敷の中はシンと寝静まっていた。弦之丞は、物の影から影へ移って、下屋敷へ近づこうとしたが、道に迷ったものか、思わぬ所へ出て、思わぬ物の影を見上げた。
それは、安治川から水を引いて水門のうちへ諸船を繋いでおくお船蔵――。荷船、脇船、色塗の伊達小早などが七、八艘みえる中に、群をぬいて大きな一艘のお関船は阿波の用船千石積の卍丸。
寛永このかた、五百石以上の船は、幕府の禁令なので、表積みは半分に称しているが、長さ十八間、幅七間、二十四反帆、二十四挺櫓、朱の欄干を立てめぐらし、金ちりばめの金具や屋形の結構さ、二十五万石の太守のお座船だけあって、壮麗目を奪うばかりである。
「さすがに裕福な阿波の楼船だけあって、将軍家の安宅丸にも劣らぬものだ」と、弦之丞も思わず物蔭からしばらく見とれていたものだった。
そして、何かの物音に、ひょいと後ろをふりかえると一軒の綱倉がある様子。
金網を張った白壁の切窓に、かすかな灯影がゆらめいていたので、何心なく覗いてみると、さっきの二人が、ここへ入り込んでいた。
「やいッ」という声は仲間の宅助。
蝋燭の裸火を前に置いて、
「これほど俺や啓之助様が、ことを分けての親切なのに、いい加減駄々をこねやがれ。