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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
七日の間に奥の座敷から女中部屋まで、くまなく探していないのだもの、きっと、周馬のやつがどこかほかへお千絵様の身を隠し、そこへ行っているに違いない……。とすると、根よくここにいるのも、何だかばかばかしい話だが」
あしたは一度妻恋の家へ帰ろうと思った。
そして、万吉にこの事を話そう。
この先とも、お千絵様の居所を尋ねるについて、自分も、どこまで骨身を砕くかわりに、弦之丞様のこともあの人に頼んでおこう。
そう思いながら、お綱はいつか、炬燵の上に横顔をのせて、トロトロとうたた寝していた。
お綱は何を夢みるのであろうか、寝顔に笑くぼがういている。その耳には、川長の座敷で聞いた一節切、その眼には打出ヶ浜の月の色がみえるのであろう。
このあたりは、みな軒のかけ離れた隠密屋敷。ましてや広い家の中には、お綱のほかに人気とてなく、まだ宵らしいが、うたた寝をさますカタンという物音もしない。
と――氷へ物の辷ったように、部屋の襖が音なく開いた。
ヌッと立った男がある。
行燈の明りを、顎から逆にうけたのが怖ろしい容貌にみえた。しばらく、黙然として、うたた寝の美しい寝顔を見下ろしている……。