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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

紺青の海遠く、淡路の島影は夢のよう。すぐ近くには川口の澪標、青嵐の吹く住吉道を日傘の色も動いて行く。

そこで、パッと鳩を放した――。

鳩は一八郎の意志をうけたように舞い揚がった。手を翳して見ていると、初めは御城番の方へ直線にツーと行ったが弧を描いて南へ返り、ハタハタと住吉村の方角へ飛び去った。

すると、異人墓の蔭で不意に声があった。

「あっ、伝書鳩――」

「俵殿ではないか」ひょいと見ると、荒目の編笠に薄羽織、風采のよい四十前後の武士。

「おお、これは常木先生」

「相変らず御熱心だの」と笠の裡で微笑した。

「いや、何……」と一八郎は鳩の行方を気にしながら「実は先生、万吉の身に凶変が起りましてな」

「ほう、それは心許ない……」

腰を下ろした侍は、元天満与力の常木鴻山、在役当時の上役で、同じ時に、同じ譴責をうけた人。以来不遇の隠士同士、互に心をあわせて、密かにある大事をのぞんでいる仲であった。

二人の失脚は、宝暦変の折だった。――明和二年の今から数えて八年前、京都で起こったあの騒動――竹内式部の密謀が破れ、公卿十七家の閉門を見、式部は遠流、門人ことごとく罪科になって解決した――あの事件の時、天満組の常木鴻山も俵同心もすばらしい活躍をした。