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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
撒いて影をくらます思案をしているらしかった。ヒョイと立ち止まって後ろを見る――、と、後ろの一角も、素速く足を止めて物かげへ身を潜めた。
途端に、弦之丞は、何思ったか、増上寺の門内へ、ツイと身をひるがえして駈けこんだ。
以心伝心。
その挙動が飛鳥のようだったので、天堂一角はハッとした。
「あっ、これは油断がならぬ。弦之丞めは感づいているのだ。うぬ、見のがしてなるものか――」
早足に駈けだしてきて、石段の下へ身を潜め、そッと、中へ入った影を見送ってみると、そこは通りぬけのならぬ道だと知ったか、弦之丞らしい白衣天蓋の人影が、ふたたびこっちへ戻ってくる……。
「おお、今だ!」
と考えた一角は、ヒラリと山門の外に身を寄せて、刀の柄糸へしめりをくれた。
ピタリ、ピタリ……とこっちへ戻ってくる人の跫音。……と何気なく山門の外へ、ひょいと白い人影が出てきたので、天堂一角が、躍りかかッて、一刀の下に斬って伏せた。
「うッ――む……」
といって白衣の影は、肩の傷手をおさえたまま、天蓋をあおむけにして、よろよろと石畳の上へぶっ仆れた。
夜気にただよう血腥さい闇の中に、斬ッて曳いた一角の白刃と、しめた! という笑みに歪んだ顔とが、物凄く泛いて見えた。