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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
このいじらしい角兵衛獅子の姉弟――なんと、放しておやりなすッてはどうじゃ」
「やっ、てめえは※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
そういう横合いから、こうおめいたのはお十夜である。左右の手を綾にして不意に虚無僧の胸倉を引っとらえた。
「――おのれは法月弦之丞だな」
「なにッ、弦之丞だ?」
周馬と一角とは、その途端に、足元から白刃をずり上げられたように、パッと踏みのいて物々しい構えをとった。
こうなると、事はにわかで、お獅子の姉弟などは問題のほかである。お十夜たるものは、一たんねじ取った弦之丞の襟もとを、締めて攻めるか、投げて倒すか、あるいは腰の助広にものをいわすか、どッちみち、ただでは別れ難きいきさつとなってしまった。
だが、弦之丞はそうでない。あたりまえの態度である。
ニヤリとして天蓋を払った。
普化の作法として、とるべからざる天蓋をとったのは、間髪を思う心支度である筈だが、それが、白刃を渡す宣言とは思えぬほど、あくまで神妙に見せて脱いだのだった。
脱げば――フッサリと切り下げた根元、色糸で巻き締めたのが凛としている。かれが天性の色の白さも際だつのであるが、こう見くらべたところ、お十夜の色悪な、一角の魁偉な、周馬のにきびだらけの面相などとは、やや性格なり修養なりの奥行の差を現わしているように見える。