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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
測らぬ虚をつかれて、まっ先に、斬られた者は誰だったか?
「あッ」
と、いったのは使屋の半次。
斬られたような声をあげて、木立のほうへすッ飛んでしまったが、その逃げようでは怪我をしたふうもないから、さしずめそこで、
「ウウーム!」と、陰惨な呻きを血煙につつまれたのは、お十夜か、周馬か、でなければ天堂一角――、その中の運の悪い一人であるには違いない。
「ちぇッ! やられた!」
危なく、後の二人は跳び開いて、パッと居合抜きに大刀を払ったが、その瞬間、一方でパチン! と火花を降らしたかと思うと、すぐ焼刃のすり合う音がして、鍔と鍔とが競りあうまもあらず、デン! と一方が蹴仆された。
仆されたまま、エエッ! と、持ったる刀で地を払ったのは黒装束のほうの男。
「うぬッ――」と叫んで起き上がり、弦之丞の姿を八、九間ほど追いかけたが、その時うしろで、
「お十夜! おい、おいッ」
と、しきりに呼びとめる声がする。それは旅川周馬らしい。
怖るべき早技で、一人を斬り、一人を蹴仆し、疾風迅雷に駈け去った弦之丞の姿は、時既に、遠い闇に消えていた。
「ええ、しまった。意気地のねえ奴が揃っている」