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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
当時、宝暦頃から明和にかけて三都、頭巾の大流行り、男がた女形、岡崎頭巾、露頭巾、がんどう頭巾、秀鶴頭巾、お小姓頭巾、なげ頭巾、猫も杓子もこの風に粋をこらして、寒いばかりにする物でなくなった。
チャラリ、チャラリと雪踏を鳴らして、今、銀五郎の左を横目づかいにすれ違った黒縮緬の十夜頭巾は、五、六間行き過ぎてから、そっと足の穿き物をぬぎ、樹の根方へ押しやッた。
かなぐり捨てた羽織もフワリとその上へ――。
と思うと身を屈めて、双の眼をやり過ごした闇へ――蝋色の鞘は肩より高く後ろへ反らしてススススと追い縋ったが音もさせない。
「ウム!」と据物斬りの腰、息を含んで、右手は固く、刀の柄糸へ食い込んだ。
グイと前へ身をうねらせる。
斬るな――と思えたが、銀五郎の後ろ構えを、多少手強く思ったのか、そこでは抜かずにもう一、二間。
すると、場合もあろうに、すぐ足もとの土佐堀で、ドボーン! と真ッ白な水けむり、不意を食わせて凄じい水玉がかぶった。
「あッ――」と音を揚げたのは待乳の多市。そのほうよりは、後ろの死神に気がついて、
「親分ッ」と、銀五郎を突き飛ばしておいて、自分も宙を飛んでしまった。