Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
……孫兵衛の情心妄想、あるきながら果てしもない。
お綱の、あの鈴形に澄んだ目も、きりッと蕾んだ口元も、板木師が一本一本毛彫にかけたような髪の生えぎわも、ふるいつきたい襟あしの魅力も、小股のきれ上がった肉づきも、おれの手にかかれば翌朝は、そのおもかげも残しはしない。お綱がうわべにまとっている、張だの侠だの意気地だの、そんな虚勢はみんな脱がして裸のお綱にしてみせる。そして五十三次の泊りの間に、この女を生れ変ったようにしてやったら……こりゃ、そぼろ助広の刃に、辻斬りの血をぬるような快さの比ではない……と、孫兵衛の魔情はニッタリとするのであった。
と、いつか並木がザワめきだしてザーッと砂をまぜた風が、お綱の裾を煽り、孫兵衛の幻想をうしろから吹き払ってしまった。
「おや、ポツリと降ってきやしない?」
お綱の眸が、雲足の迅い空をみていた。
「オオ、夕立雲!」
「困ったねえ、まだ大津へも着かないうちに」
「しかたがないから早泊りとするさ」
「向うに見えるのが追分だね」
「ウム、どうせ二人とも急ぐ旅じゃねえ。オ! こいつアいけねえ、本降りだ!」いううちに大粒の雨、サーッと斜めに吹っかけてきたので、二人はにわかに走りだした。