Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Read 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,941 characters · 79 screens
「しまった!」と老人は声を上げた。石段の方へ走って行った。
果たして口を閉ざされていた。
「ううむ」と呻かざるを得なかった。「それにしても不思議だなあ。こんなに早くあの香具師が、睡眠から覚めようとは思われないが、併しあの男以外に、こんな一軒屋へ遣って来て、秘密の出入口を閉じる者は、他にあろうとは思われない。ははあ偖は香具師奴、眠ったような様子をして、その実眠っていなかったのだな。後から尾行けて来たのだな。……さあ是から何うしたものだ。他に戸口は無いだろうか? いやいや他に戸口があっても、容易に目付かるものではあるまい。よしんば仮え目付かったにしても、あの悪党の香具師だ、内側から楽に開けられるような、そんなヘマはして置くまい。……計る計ると思ったが、その実俺の方が計られた哩」
石段の下に佇み乍ら、老人は暫く思案に耽った。と其時、閉ざされた口が、そろそろと上へ持ち上った。一筋細目に隙が出来た。そうして其処から棒のような物が――いや匕首が突き出された。
「香具師さん、香具師さん、驚いたかい妾だよ」
女の声が聞えて来た。
「誰だか見当は付いているだろうね。お半だよ、お半の方さ」