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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
Read 娘煙術師 (むすめえんじゅつし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 267,766 characters · 530 screens
甦った紋也
「静かに!」と鈴江は注意をして、紋也のようすをうかがった。駒雄の声が高かったからである。
「そちらへ参ってお聞きいたしましょう」
鈴江は部屋を出たが、その時例の老人の、神々しい声が聞こえて来た。
甦った紋也
「しかれどもただ、業のみ敬いて、誠の心うすければ、君に諂うに近うして、君を欺くにも至るべし。本心より二心なく敬うを忠といえり、忠は己が心を尽くすの名にして、如才なき本心を、業と共に尽くすことなり。そのお側近うつこうる身は、はじめのほどは、恐れ慎むの心もっぱらなれども、慣れては衰うるものにや。古より忠は宦成に怠り病いは小癒に加わり、禍いは懈惰に生じ孝は妻子に衰うという、また礼記にも、狎れてしかしてこれを愛すといえり」
講義をしている老人の位置が、おそらく接近をしたのではなくて、紋也の意識が以前よりも、恢復されたがためであろう、そういう老人の講義の声が、紋也の耳へ粒立って、今は聞こえて来るようになった。
「どうでもこれは誤まりではない、竹内式部先生が、堂上方のおためを計って、お書きになった奉公心得書を、どなたかが講じておられるのだ」で、紋也はどうぞして自分も、講義の席へ連らなって、講義を聞きたい欲望にとらわれざるを得なかった。