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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

Read 山浦清麿 (やまうらきよまろ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,573 characters · 91 screens

Aozora Bunko

五

涙はこぼれて、鋼を冷まし、冷めた鋼は又、火土の中へ投げ込まれて、彼の苦しい胸の喘ぎを吐くように、鞴の呼吸にかけられた。

――と、すぐその鞴の上の竹窓越しに、ちらと、人影が映した。

弟の環だった。

『兄貴、兄貴』

『あっ、環だな。――まだ居たのか。そこらにうろついていると、砥水を浴びせるぞ。とッとと、大石村へ帰れ』

『もう、会わぬぞ』

『何ッ』

『――おっ母さん、お達者で』

お菅は、駈け出して、

『環やあーっ』

さけんだが、彼の姿は、もう先祖以来の大欅に囲まれた家の外へ走り出して、千曲川の上流に沿う断崖の道を――その故郷の少年頃から馴れた道を――奔流の流るる方へと、ただ驀しぐらに、顧みもせず、どんどん駈けて行ってしまった。

五

春は去ったが――

又、やがて、彼女の彷徨う夜の数も減ったが――。

でも猶、折々に、時鳥の啼きぬく闇の夜など、山浦家の裏に、ぽかっと、白桔梗の花のような、女の顔が、悲しそうに佇んでいることがままあった。

環の妻のお咲だった。

乳呑み子の名は、梅作といった。

稀れに又、その梅作のかなしげな泣き声が、千曲の水の咽びかとも聞えることがある。

そんな晩――