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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens
うけた大きな驚愕の浪のなかに、自身というものを、巌のように据えていた。
台所方の小役なので、この席にはいなかった三村次郎左衛門が、その時、畳廊下から次部屋をのぞいたが、誰もいないので、
『御城代! 御城代っ』
と大きく呼びたてていた。
九郎兵衛は、皺首を振り向けて、すぐ起ち上った。もう弓腰に曲がっているが、常に養生のいい老人で健康が自慢であった。つつつと次部屋を越えて、
『三村か、なんじゃ』
と云った。
次郎左衛門は、膝まずいて、
『御城下の騒ぎ、一方ではございません。御櫓から御覧なされませ』
『騒ぎとは、なんの騒ぎ? ――。町人共には、関わりもないことじゃに』
彼が櫓の狭間に顔をだした時、誰からともなく伝えられたとみえ、広間を出て来た藩士たちが、四五人ずつかたまって、城下の方を凝視していた。
町には、黄ろい埃があがっていた。蟻のような群集の列が、辻々にみえる。札座屋敷の門を中心に、塀を囲んで騒いでいるのだ。それを遮ろうとする町年寄や、会所の者との間に、小競り合いが始まっているらしく、暴動的な殺気さえ漲って見えた。
『あれや、町人共が、お家の凶変を早耳に聞いて、藩札を引き換えよと騒いでいるのじゃな。