Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens
あわれ、いささかなりとも、御寛恕の一片を、大学様に、御垂徳くだし置かれますれば、地下万代御高恩を仰ぎ忘れは仕りませぬ。諄くも懇願申し奉ること大罪と恐れ入りまするなれど、何とぞ、お心のうちにおとめ置き賜わりまするように』
あたりに附添って、手をつかえている藩士達は、内蔵助の静かなその声に打たれて、泣くまいとするほど瞼が支えきれなかった。
依然として二人の使者は無言を守っている。歩みだしてから、
『内蔵助の申し条、臣として、余儀ないことに思われる』
と、低く一言洩らした。
だが――その夜、十左衛門から内蔵助へ招きがあって、
『御心底、篤と、今日拝見しました。諸事、お見事であった。帰府の上は、上聞にも及ぶでござろう』
と云った。
大学の名は口にしなかったが、十左衛門の心は動かし得た。
翌十九日は、いよいよ、城との別れの日である。荒木十左衛門の旅舎を出た内蔵助は、すぐ城へ引っ返した。持々の場所に夜を明かして、警備している藩士たちへ、
『こよい一夜は、まだ亡君のお城でござるぞ。御門、火気、おぬかりあるな』
と励まして廻った。
やがて夜も明け方に近いかと思われる頃、遙かに貝の音が聞え渡った。