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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens

Aozora Bunko

『御苦労でござった』

内蔵助は、弟子に礼をのべて、静かに、杯を含んでいた――彼が、進藤家へ預けにやった長持の中には、自分の死後、諸方へ頒つ遺物が、それぞれ一品一品、紙片に贈り先の姓名を誌して一ぱい入れてあるのだった。

もう晩かったが、玄渓の家を出ると、涼しさに、夏の月夜を足はそぞろになって、微酔を蚊帳につつむのが惜まれた。

『わしは、一文字屋に立ち寄ってゆくが、貴公も、茶でも馳走になってゆかぬか』

二条の辻で、ふと、内蔵助が云う。源吾は、つかれていたので、明日を約して別れた。――振向くと、内蔵助は、風の中で飄々と、寺町の通りへ曲がっている。

『いるか』

『おう、これは』

一文字屋の人々は、思いがけない時刻に思いがけない人が訪れて来たのに眼をみはり、家中して、彼を奥の涼やかな一間へ迎え入れた。

ここはお軽の兄の家だった。山科の屋敷や家財一切を引き払うと同時に、お軽も家へ帰されていた。

(めずらしいお微行――)

と、一文字屋の家族たちは、わざと席を外していたが、やがて、奥のお軽の部屋から、内蔵助の所望とみえ、彼女のたしなむ琴の音が洩れて――

燈暗うして

数行虞氏の涙