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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
Read 新編忠臣蔵 (しんぺんちゅうしんぐら) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 337,181 characters · 676 screens
――だが、時刻はまだ早い』
『戸外は大雪、それにお年老の足もと、早目にお出かけなされて丁度よい加減ではござりませぬか』
利かない気の老人が、若い甥の、その言葉に素直でいる筈はない。
がばと、炬燵蒲団を刎ねて、
『条右衛門』
『はっ……』
『云い居ったな。よし、それでは相生町の十平次の宅まで、供を申しつける』
『元より、あの附近まで、お供する気で九十郎と参ったのですから』
その間に、ずかずかと老人の足音が次の間へ移った。灯のない部屋の長押から槍を降ろしている。弓形になっているので、何うかと思われた腰が、弦を外したようにぴんと伸び、手に取った槍をりゅうと二三度扱いて、
『――屋内ではちと長いな。九十郎、この柄を七寸ほど断り縮めて、石突きを入れ直せ』
と、云って手渡した。
九十郎は吩咐けられた通りに、槍の柄を短く詰めて叔父へ返した。弥兵衛は入れ直した石突の先を、庭石へ二、三度突き鳴らして、
『これでよし、これでよし』
と、大きく頷いた。
それを小脇に持つと、ずっと玄間へ出て行ったのである。彼の妻は、四十幾年か連れ添って来た良人の白い鬢の毛を、じっと見つめながら従いて来たが、ふと弥兵衛が周りを見廻すと、まだ見えない者が一人あった。