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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

「端役人共も下郎達も有難く心得ろ。隣り座敷での遊興、慈悲を以て許してつかわすぞ」

「なにッ」

「よッ」

「気味のわるい奴が、またやって来たな! 女将! 仲居! なぜあげたッ」

「客止めの店へなぜあげたッ」

「つまみ出せッ、つまみ出せッ。何をまごまごしておるかッ。早うつまみ出せッ」

不意を打たれてぎょッとしながら、騒然と口々にわめき立てているのを、退屈男は心地よげに微笑しながら、悠々綽々として腰をおろすと、うろたえている仲居へ爽かに言いました。

「のう、女!」

「………」

「ほほう、血の道でもが止まったと見えて、青うなっているな。いや、大事ない大事ない。少々胸がすッと致したゆえ、今宵は身共も美人を一個侍らせようぞ。珠数屋の大尽とか申す町人の敵娼は、何と言う太夫じゃ」

「困ります。あのようにお大尽様が御立腹のようでござりますゆえ、困ります困ります。今宵はもう、あの――」

「苦しゅうない。何と申す太夫じゃ」

「八ツ橋はんと言やはりますが、それももうお大尽が山と小判を積みましての事でござりますゆえ、所詮、あの――何でござります。ちッとやそッとのお鳥目では、あの、何でござりますゆえ、今宵はもうあの――」