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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
「よッ――」
「………」
「さッきの奴じゃな! 行く手をふさいで何用があるのじゃ! 何の用があってつけて来たのじゃ!」
ぎょッとなって色めき立ったのを、およそ不気味な威嚇です。否! 実に痛快な一語でした。
「何の用もあって来たのではない。江戸侍の怕いところを少々御披露しに参ったのよ」
「なにッ、怕いところを披露とは何のことじゃ! われら、うしろ暗いことなぞ一つもないわッ。道をあけろッ、道をあけろッ。しつこい真似を致すと、役儀の名にかけてもすてておかぬぞッ」
「早い。早い。その啖呵はまだ早い。うしろ暗いところがなくば結構じゃ。あとでゆるゆる会おうわい。充分に覚悟しておくがよかろうぞ。では、あちらでお待ち致すかな。腰のものの錆なぞよく落して参れよ」
気味わるくあっさりあしらっておくと、
「供! 供! お供! 所司代番所じゃ。威勢よく参れッ」
ゆったり乗って、所司代詰所目ざしながら駕籠を打たせました。――その行き先を耳に入れて、俄かに狼狽し出したのは、今のさき、うしろ暗い事なぞ毫もないと、大見得を切った件の二人です。
「少々……」
「うむ、分った! こちらは付添って参らずとも万事心得ている筈じゃ。