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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
「ならぬ! ならぬ!」
「開門なぞ以てのほかじゃッ」
「貴公の目玉は節穴かッ」
「直参であろうと、旗本であろうと、夜中の通行は制札通り御禁制じゃッ」
「かえれッ。かえれッ」
「とッとと帰って出直さッしゃいッ」
代る代るに罵りながら、表の禁札を楯にとって権柄ずくに拒んだのを、だが退屈男は心に何か期するところがあると見えて、至って朗らかに、至って悠然としながら叫び立てました。
「騒々しゅう申すな。立派な二つの目があればこそ、公儀お直参が夜中のいといもなく直々に参ったのじゃ。どうあっても開門せぬと申すか」
「当り前じゃわッ。表の制札今一度とくと見直さッしゃいッ。禁中よりのお使い並びに江戸公儀よりの御使者以外は、万石城持の諸侯であろうと通行厳禁じゃッ。江戸侍とやらは文字読む術御存じござらぬかッ」
「ほほう、申したな。笑おうぞ、笑おうぞ、そのように猛々しゅう申さば、賄賂止めのこの制札が笑おうぞ」
「なにッ、賄賂止めとは何を申すかッ。この制札が賄賂止めとは何ごとじゃッ。不埓な暴言申さば、御直参たりとも容赦ござらぬぞッ」
「吠えるな、吠えるな。そのように口やかましゅう遠吠えするものではない。