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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
わははは。さてはこの眉間の疵に顫えておると見ゆるな。よいよい。それならほかをばきいてやろうぞ。――白石屋! 白石屋! そちらの下郎!」
「へえ……!」
「その方のところはどうじゃ。眉間に少し怕そうな疵痕があるにはあるが、優しゅうなり出したとならば、女子よりも優しゅうなる性ゆえ怕がらないでもよい。宿銭も二三百両が程は所持致しておるぞ。どうじゃ、泊めて見るか」
「いえ、あの相済みませぬ。どうぞ御見逃し下さいまし。手前共もこの次にお泊り願いとうござります」
なぜかしどろもどろとなって、うろたえ脅えながら、逃げるように向うへ走り去りました。――まことに奇怪と言うのほかはない。ひとりならず居合わした客引きはいずれもみな、何のかのと逃げを張って泊めようとすらもしないのです。主水之介の不審は急に高まりました。
何か仔細がなくてはならぬ。
何か秘密がなくてはならぬ。
いぶかっているとき――、
「お気の毒なことでござりまするな。旦那様、旦那様」
不意にうしろから呼びかけた声があったかと思われるや同時に、その横丁へ曲り角の千種屋と灯行燈の見える旅籠の中から、揉み手をしいしい腰を低めて近づいて来たのは、すっきり垢ぬけのした年の頃もまだ若そうな番頭です。