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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
眺め眺めかえるかのう」
早くも注進うけたか、歩き出したそのうしろの屋敷内に、突然、慌ただしく足音が近づくと、罵るように言ったのは、まさしく主計頭の声です。
「やったな。出すぎ者めがッ。忘れるな! 覚えておれよ!」
「ウフフ。わはは。そこへお越しか。声の主に物申そうぞ。主水之介、今宵のことは内聞に致してつかわしましょうゆえ、二万四千石が大切ならば、以後幽霊なぞこしらえぬようにさっしゃい。曲輪育ちの女子はな、千石万石がほしゅうはない。気ッ腑がほしゅうござるとよ。わはは。――誰袖源七! 六兵衛のところへ早う行けい。比翼塚建てましょうにと、嘆いておったほど物分りのよいおやじ様じゃ。めでたく身請けが出来たら、また好物の菓子折など届けろよ。念のためじゃ、七五郎達送り届けい。――では京弥!」
「はッ」
「三河でぐずり松平の御前からきいた言葉をふと思い出した。屋敷へかえってあの菓子頂戴しながら、菊めにお茶なぞひとねじりねじ切らすかのう。ウフフ。如何ぞ!」
「けっこうでござります」
「なぞと申して、菊めの名前が出ると、俄かにそわそわと足が早うなるのう。――一句浮んだ。茶の宵やほのかにゆらぐ恋心、京弥これを詠む、とはどんなものぞよ」