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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

のです。

だから出る。

いいや、出ない。

出たとも。ゆうべも出たぞ。日の暮れ頃だ。あの寒竹の中から、ふんわり白い影が、煙のようにふわふわと歩き出したとかしないとか、噂とりどり。評判もさまざま。

「馬鹿言っちゃいけねえ。惚れた女と一緒になって、むつまじいところを見せてやりゃ、幽霊の方が逃げらあな。それに井戸はもう埋めてあるし、家だって造りは変っておるし、出て来りゃ、おまえとふたりでのろけをきかすのさ。これが二十たア安いもんだ。新世帯にかっこうだぜ」

買って住み出したのが五月のつゆどき。

画はそんなにうまくはないが、篠原梅甫、真似ごとにやっとうのひと手ふた手ぐらいは遣って、なかなかに肝が据っているのです。

「よそで食ってもうまくねえ。おまえのお給仕が一番さ。おそくなっても晩にゃ帰るからね。やっこ豆腐で、一本たのんでおくぜ」

出来あがった画を浅草へ持っていって、小急ぎに帰って来たのが六月初めのむしむしとする夕まぐれ……。

ひょいと玄関の格子戸へ手をかけようとすると、ふわりと煙のような影だ。寒竹の繁みがガサガサと幽かにゆれたかと思うと、うす白い男の影がふんわり浮きあがりました。