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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

「ごぜん、どうざます。女子に見えますかえ。およろしかったら、わちきに酌なとさせておくんなまし……」

「わはは、そうか、そうか、団十郎め、心憎い趣向をやりおった。女子がおると思えばおるような、いないと思えばいないようなと申したはこのことか。いや、いないどころか立派な女子じゃわい。主水之介、苦労がしとうなった。どうじゃ、奥州、いっそ成田屋を撒いてどこぞでしっぽり濡れてみるか」

「お口さきばっかり……。では成田屋さん、お伴させて頂きんしょう」

櫛、こうがい、裲襠姿のままで吉三郎が真ん中、先を成田屋、うしろに主水之介がつづいて、木挽町の楽屋を出た三挺の列ね駕籠は、ひたひたと深川を目ざしました。

すだれ越しに街の灯がゆれて、大川端は、涼味肌に沁みるようです……。

さしかかったのが江戸名代の永代橋。

「あの、もうし、かご屋さん……」

渡り切ると、不意に簾垂れの中から、吉三郎の奥州が、もじもじしながら恥ずかしそうに呼びとめました。

「ちょっと、あの、かごを止めてくんなんし……」

「へえへえ。止めますがお気分でもわりいんですかい」

「いいえ、あの、わちき、――おししがやりたい……」