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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
おどろいて逃げ出そうとしたお杉の方をずばりと重々しい一言で威嚇しておくと、京弥の方へ向き直ってきき尋ねました。
「先程、仲之町で消え失せたのは、菊路の兄がわしと知ってはいても、会ったことがなかったゆえに、見咎められては恥ずかしいと、それゆえ逃げなさったのじゃな」
「はっ……、御礼も申さずに失礼してでござりました」
「いや、そうと分らば却っていじらしさが増す位のものじゃ。もはやこの様子を見た以上聞かいでも大凡の事は察しがつくが、でも念のために承わろう。一体いかがいたしたのじゃ」
お杉の方に気がねでもあるかのごとく、もじもじと京弥が言いもよったので、退屈男は千鈞の重みある声音で強く言いました。
「大事ない! 早乙女主水之介が天下お直参の威権にかけても後楯となってつかわすゆえ、かくさず申して見られよ」
「では申しまするが、お杉の方が久しい前から手前に――」
「身分を弁えぬ横恋慕致して、言い迫ったとでも申さるるか」
「はっ……。なれども、いかに仰せられましょうと、君侯のお目をかすめ奉って、左様な道ならぬ不義は霧島京弥、命にかけても相成りませぬ。それにまた――」
「ほかに契り交わした者があるゆえ、その者へ操を立てる上にもならなかったと、申さるるか」