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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
もし、お兄様!」
「………」
「お兄様!」
起きる気色もない。ことさらに落ちついているあたり、今に訪れるに違いない禍いのその使者を待ちうけているかのようにも見えるのです。
だが、不思議でした。
もう来るかもう来るかと、菊路たちふたりはおびえつづけていたのに、城中はおろか、どこからも使者らしい使者は来る気勢もないのでした。
水の里本所は水に陽が沈んで、やがて訪れたのは夕ぐれです。高枕したまま起きようともしない主水之介の居間にもその夕やみが忍びよったとき、突然、玄関先で憚るように訪のうた声がある。
ハッとなって京弥が出ていったと思うまもなく、青ざめて帰って来ると主水之介をゆり起しました。
「御前! 御前! ……。参りましたぞ!」
「来たか」
「来たかではござりませぬ。大目付様、おしのびで参りましたぞ」
「大目付にも多勢ある。誰じゃ」
「溝口豊後守様でござります」
「ほほう、豊後とのう。智恵者が参ったな」
主水之介はようやくに起き上がりました。――大目付は芙蓉の間詰、禄は三千石、相役四人ともに旗本ばかりで、時には老中の耳目となり、時にはまた、将軍家の耳目となり、大名旗本の行状素行にわたる事から、公儀お政治向き百般の事に目を光らす目付見張りの監察の役目でした。