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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
「わッははは。御定紋なるかな、御紋なるかなじゃ。馬鹿の顔が見たいのう。豊後どの、御念の入ったる御警固御苦労に存ずる。駕籠行かっしゃい」
崩れるような爆笑を打ちのせて、主水之介の乗物はゆさゆさと常盤橋御門へさしかかりました。
ここを通ればもう御城内。下馬止めまでずっと安全でした。
だが、それにしても気にかかるのは、豊後のこの計らいです。闇から闇へ片付けて、事の黒白を永遠に秘密の中に葬ろうとしたこの計らいが、豊後自身の方策から出ているか、それとも腰本治右が手を廻した策であるか、もしも治右が陰に動いて、破邪顕正の大役承わる大目付までをもおのが薬籠中のものにしているとしたら、ゆめ油断はならぬ。おそらく将軍家の耳にも、身の潔白は歪められて、ゆうべの一条もあることないこと様々に尾ひれをつけた上、さもこちらからお紋の方にゆるしがたき不義の恋しかけたごとく言上されているに違いないのです。
主水之介は、ぐいと丹田に力を入れて、静かに腹をなでました。
黒が白と通る将軍家です。
ましてやその一顰一笑によって、国も傾く女魔がおつきなのです。
下乗橋からお庭伝いに右へいって、中ノ口。