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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

槍襖の向うから、一つの影に二つの影が守るように寄り添って、じっと形勢を窺っているのです。

「………?」

探るように主水之介の眼は、短槍の列を越えて、向うの三つの影へ喰い入りました。――その真中の影が、殺気をはらんだこの対峙を前にして、これはまた何としたことか、鷹揚そのものといいたいふところ手で、ぬうッと立っているのを見定めた瞬間、何思ったか、主水之介の面ににんまりわいたものは不敵な微笑でした。同時に太い声が放たれました。

「アハ……。おもしろい。お相手仕ろうぞ…」

何ごとか期するところあるに違いない。左手を丹田に右手を上向きにつきあげた揚心流水月当身の構え!

――素手で行こうというのです。しかも、ぐっと相手をにらんだその目の底には、明るい微笑が漂うたままなのです。

「これでまいる! 素手は素手ながら三河ながらの直参旗本、早乙女主水之介が両の拳、真槍白刄よりちと手強いぞ。心してまいられい…」

「………」

「臆するには及ばぬ……遠慮も御無用!………額の三カ月傷こわかろうが、とっては食わぬ。腕一杯、踏んで来られたらどうじゃ」

広言にくしとはやったか、右の一槍が、夜目にもしるくスルリと光って、