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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

「上!」

「綱吉の仕置き、これでよいか」

「なにをか、なにをか――」

このお裁きいただきたさに、決死の登城をしたのです。天下万民のため命をすててと、こめた願いは通ったのです。主水之介の声はぐっと感激につまりました。

「――なにをか主水之介、申しましょうや。ただただ……」

「胸がすいたか」

「ははッ。聖人は色を以て賢に替えず。天っ晴れ神君御血筋の御名君! この君戴いて天下泰平、諸民安堵! 御名君! 御名君! 主水之介のよろこびは四民のよろこび、何とも申し上げようもござりませぬ」

「いかん! いかん! そちの御名君々々々が出るとあとがこわいぞ、のう、豊後!」

「御意!」

「また冷汗かかされぬうちに引揚げた方が賢明じゃ。――よい夜気のう。今宵は快うやすまれるぞ。豊後! 馬!」

「はッ」

最後のさしまねいた手に応じて、橋の向うからかけよって来た御乗馬にゆらりとまたがられると、

「主水之介、時おりはまた小言を堪能させにまいれよ。さらばじゃ」

「主水之介どの今宵のお手柄、祝着に存ずる。挨拶はいずれ後日――」

はれやかな会釈のこして溝口豊後守も騎乗。カバ、カバ、こころよい蹄の音ひびかせて将軍家の一行は千代田城の奥へ、――見送る中から、くくと男の泣声がわきました。