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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
しかも挑みかかった黒鹿毛がまた、いちだんと不埒なことには、かしこのあたりも颯爽として、いとも見事な牡馬なのです。
「わははははは、左様か左様か。畜生共に恋風が吹きおったかい。わははは、わははは。道理でのう、道理でのう、いや、無理もないことじゃ、牝と牡なら至極無理もないことじゃ」
カンカラと声を立てて退屈男は、傍若無人に笑いました。しかし、笑っていられないのはふり落された二人です。退屈男のその大笑いを、己れ達に加えられた嘲笑とでも勘違いしたのか、果然その満面に怒気を漲らせると、身も心もないもののように只おろおろと打ち慄えていた若者の近くへ、大刀をひねりひねり歩みよりながら、鋭くあびせかけました。
「出いッ、百姓! 前へ出い!」
「相すみませぬ。ご勘弁なすって下さいまし。これがわるいのです、この、黒めが、黒の奴がわるいのです。お許し下されまし。どうぞ御勘弁なすって下さいまし……」
「馬、馬、馬鹿を申すなッ。馬のせいにするとは何ごとじゃ! 己れが乗用致す馬が暴れ出さば、御する者がこれを制止すべきが当り前、第一下民百姓の分際で、武士が通行致す道先に、裸馬など弄ぶとは無礼な奴じゃ! 出い! 出い! 前へ出い! 覚悟があろう! 神妙に前へ出い!」