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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
祖先の御遺訓を守るは孝の第一、神を敬するは国の誉、そなたも豊葦原瑞穂国にお生れの立派な若殿様じゃ。わははは。いやなに、わははは。では、みなの衆、帰ってもよいそうじゃ。お互い物の道理の分る御慈悲深い御領主様を戴いて、倖でおじゃりまするな。そろそろ参りましょうわい」
「よッ!」
「何じゃな」
「待たッしゃい!」
「ほほう、まだ御用がおじゃりますかな」
「不審な奴があとにおる。そのうしろの深編笠は何者でござる!」
「ははあ、なるほど、これでござるか。この者はな、わしの伜じゃ」
「なにッ。そなたには妻がない筈、それゆえ変屈男と評判の筈じゃ。独身者に子供があるとは何とされた!」
「妻はのうてもわしとて男でござりますわい。若い時に粗相をしてな。落し胤じゃ、落し胤じゃ。――伜よ。参ろうぞい」
飛んだ落し胤の主水之介が、また大層もなく心得ているのです。
「父上。思わぬところで旧悪がバレましたな。ウフフ。では、どうぞお先に、うしろから送り狼が五六匹狙うているようでござりますゆえ、ちょッと追ッ払ってから参ります」
何者か編笠の中の正体を見届けようとつけ狙って来た小者の方へ、ずいと静かにふり向くと、パチンと高く鍔鳴りをさせました。