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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
「なぞと言うて、嘘を申せ。嘘を申せ。ちゃんと二人の顔に書いてあるぞ。菊がねだったのやら、そちが拗ねたのやら知らぬが、別れともない、別れて行くはいやじゃ、なら御一緒にと憎い口説のあとで、手に手をとりながら参ったであろうが喃。ウフフ、あはは。いや、よいよい、京弥までが一緒に参ったとあらば、風情の上になおひと風情、風情を添えるというものじゃ……。のう御老体。沼田の御老体!」
「ここじゃ。ちゃんとうしろにおりますわい」
「……? なるほど、左様か。いつのまにおいでじゃ。これが主水之介の妹菊路でござる」
「そちらが御妹御御意中の御小姓か」
「と、まア、左様に若い者を前にして、あからさまなことは言わぬものじゃ。役者が揃わば手段は身共の胸三寸にござる。すぐさま参りましょうぞ。……のう菊」
「あい……」
「そち、疲れておるか」
「あい、少しばかり。……いいえ、あの、久方ぶりに懐かしいお兄様のお顔を見たら、急に元気が出て参りました。何でござります、わたくしに火急の御用とは何でござります」
「それがちと大役なのじゃ。なれどもそちとて早乙女主水之介の妹じゃ。よいか。この兄の名を恥ずかしめぬよう、この兄に成り代ってこの兄にもまさる働きをするよう、充分覚悟致して大役果せよ。