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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
襖の向うで言う声がありました。
「お目醒めでござりましたか」
「京弥か」
「はッ」
「菊に用なら、ここには見えぬぞ」
「何かと言えばそのように、お冷やかしばかりおっしゃいまして、――お目醒めにござりますれば、殿様にちと申し上ぐべき事がござりまして参じましたが、ここをあけてもよろしゅうござりまするか」
「なに、殿様とな? 兄と言えばよいのに、他人がましゅう申して憎い奴じゃな。よいよい、何用じゃ」
「実は今朝ほど、御門内にいぶかしい笹折りが一包み投げ入れてでござりましたゆえ、早速一見いたしましたところ、品物は大きな生鯛でござりましたが、何やら殿様宛の手紙のような一事が結びつけてござりますゆえ、この通り持参してござります」
「……? ほほう、いかさま大きな鯛じゃな。手紙とやらは開けてみるも面倒じゃ、そち代って読んでみい」
「大事ござりませぬか」
「構わぬ、構わぬ」
「………?」
「いかが致した。首をひねっているようじゃが、なんぞいぶかしい事でも書いてあるか」
「文字がいかにも奇態な金釘流にござりますゆえ、読み切れないのでござります――いえ、ようよう分りました――ごぜん、せんやは、たいそうもねえ御やっかいをかけまして、ありがとうごぜえやした。