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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

Read 白花の朝顔 (しろばなのあさがお) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,880 characters · 62 screens

Aozora Bunko

……何しろ取込んで忙しそうだ、早いに限ると、外套を脱いだ身軽です。いきなり下りると、

「へい、行ってらっしゃいまし。」

帳場で女の声がしたかしないに、

「危い!」

わッと響くのが一斉で、相撲が四五人どッと立った。いずれも大ものですから、屋鳴り震動の中に、幽に、トンと心細い音が、と見ると、お絹のその姿が階子段の上から真横になって、くるくるトトトン、褄がばッと乱れて、白い脛、いや、祇園での踊手だと聞く、舞で鍛えた身は軽い、さそくの躾みで前褄を踏みぐくめた雪なす爪先が、死んだ蝶のように落ちかかって、帯の糸錦が薬玉に飜ると、溢れた襦袢の緋桜の、細な鱗のごとく流れるのが、さながら、凄艶な白蛇の化身の、血に剥がれてのた打つ状して、ほとんど無意識に両手を拡げた、私の袖へ、うつくしい首が仰向けになって胸へ入り、櫛笄がきらりとして、前髪よりは、眉が芬と匂うんです。そのまま私の首筋に、袖口が熱くかかったなり、抱き据えて、腰をたてにしたまで、すべて、息を吐く隙がない。息を吐く隙がありません。

土俵が壊れたような、相撲の総立ちに、茶屋の表も幟を黒くした群衆でしょう。雪は降りかかって来ませんが、お七が櫓から倒に落ちたも同然、恐らく本郷はじまって以来、前代未聞の珍事です。