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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
よくよくふしぎな主従、ふしぎなおれという家来」
その結びつきは、幼少にまでさかのぼる。
幼時の尊氏に傅役として付き、いらい尊氏が十八歳の初上洛の旅の日から今日まで、影と形のように、離れたことはない。いや体は他の家臣よりも、側にいる日ははるかに少なく、どこか遠い所にいながら、始終、影と形のような不即不離の役目ばかりして来たのだった。
おあるじの隠し子、不知哉丸と藤夜叉のことでも、どんなに長い日蔭の日を送ったことか。いらい具足師の柳斎となり、主家の隠密をも果し、やがて、このごろの御陣となっても、何か暗中を翔ける使命にばかり向けられていた。――武士でいながらほとんど戦場には立たされたことがない。――そしてまたも、こんどは「これがそちの、さいごの働きとも思え」といわれて来た重い役目なのである。
「とまれ、いちかばち命がけ。当ってみるしかみちはない」
とうに腹はそれだったが、しかしもしこんな、いわば敵国の中で、この命を落したら、たれが右馬介の一生などを知って、念仏の一つでもとなえてくれる者があるだろう。ふと、そんな思いにも吹かれたか、介は独りで首を振った。そしてあらたな勇を持ち直したように、身をおこすやいな、急にまた足を早めだした。