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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
――が、はやくも敵に先を取られ、逆に彼の襲撃をみてしまったのだ。そこで、
「もし今日にでも太宰府が陥ちていたら?」
と、航路の一日中、心も空な頼尚だったのである。またそうした不安も尊氏には告げていなかっただけに、芦屋の岸へあがるやいな、彼は、
「太宰府の侍は来ていないか。誰であれ、味方がいたら、ここに頼尚ありと触れて来い」
と八方へ手分けして、まず太宰府の安危と、老父妙恵の消息をさきに知ろうとした。
すでに、ここらの様子も変だった。彼の予想のようでない。
本来なら、足利方と目されている島津貞久や大友具簡の軍兵も、尊氏の通達で、一部は来会していなければならぬはずだ。しかるに、そんな軍隊は見えず、やがて捜し出されたのは十数名の太宰府からの落武者と、遠賀川のやや上流で、焚火をあげていた一団四、五十名の味方が発見されただけだった。
その中に、太宰府の家臣、畦倉豊前守の末子井筒丸もいて、頼尚の姿を見ると、わっと泣いて、頼尚の足もとへ泣き仆れ、
「筑後さま。遅うございました。太宰府は今暁、菊池勢に攻めおとされ、大殿の妙恵様、宗応蔵主さま、ご一族は内山へ逃げ退いて、御寺へ火をかけ、火中にて御自害をとげてみなお果てなされました。