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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens
「さようで」
「永劫の敵とまで申したか」
「は」
「そしてまた……。正成は今上の御一方にちかいまいらせた一朝臣。さよう、江口の遊女のように、世を浮舟と渡る上手なすべは知り申さぬと」
「仰せられてござりまする。御苦笑のうちに」
「いや恥かしいことだった。そちのつみではない。そちを密使にやった尊氏の不覚だった。尊氏という者は、人をみる明がないとおもわれたことであろう」
「…………」
「その一点はいまいましいが、荒磯の芥のなかに一粒の真珠を見たような心地はする。――いやこの尊氏の前途にあたって、そのようなゆゆしい大敵が待つかと思えば、尊氏もまた、いちばいな智と勇をふるいおこさずにはおられん。珍重珍重。もうよい……。介、充分に休息をとれ」
この日頃であった。
介の帰陣と、ほとんど、時をひとつに、播磨の赤松円心からの急使が、太宰府の営に着いていた。
状には――
三月初旬このかた
新田金吾(義貞)ノ大将
当城(白旗城)を取籠
防禦おこたりなしと雖も
兵糧、不用意
万一にも
御帰洛、延引あらば
城方の結束も
堪忍せしめ難し
早々
御進発 急がれたく……
云々とあって、事態の容易でないことを、訴えて来たのであった。