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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

Read 私本太平記(七) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 330,262 characters · 662 screens

Aozora Bunko

尊氏が西下のさい他日を約して、山陰、山陽に残しておいた仁木頼章や今川駿河守などからも、同日付けの飛脚が、前後して、尊氏の手許へ着いた。

みな、一様に――

御東上、延引となれば、とうてい新田の大軍はささえがたい。急ぎ、御進発を

と、いまや尊氏の再上洛を首を長くして待つ声ばかりなのだった。

――かくて

帰洛の御評議あるも

衆言、たちまち

両議に別る

とは「梅松論」が言っているところで、要するに、準備は未しとなす尚早論と、即刻東上をよしとする意見とが二つにあったものとみえる。

が、尊氏は、即刻東上の方を取った。

元々、彼のはらは早くからそこにあったらしい。――彼は約一ヵ月ほどしか太宰府にいなかったが、そのあいだ、太宰府から他の戦線へは、いちども動いていなかった。――そしてただ執事師直を督して船集めに専念していたものである。――で、大小数百そうの船は、ただちに九ヵ国の兵と馬や食糧を満載して、博多湾をひがしへ出てゆき、尊氏自身は、べつの一軍をひきいて、四月三日、陸路を筑前芦屋ノ浦へと急いでいた。

山海相聞

はやい。

じつに早かった。

われながら、尊氏はいま、薄れゆく九州の地をかえりみて、船上からそう思う。