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びしょうじょいちばんのり
美少女一番乗り
山本 周五郎
Read 美少女一番乗り (びしょうじょいちばんのり) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 73,583 characters · 149 screens
「はい……」
「乳母の言う事をよくきくのだぞ」
治兵衛はお通の涙を拭いてやりながら、
「藤兵衛、与吉」
「はい」
「冑の事、店の事も頼んだぞ」
「――畏まりました」
二人は溢れ出る涙を拭いながらそこへ手を突いた。
津田直記に引立てられて行く父の姿、お通は見るに堪えなくなって、奥の間に走って来ると、いきなり乳母の膝へ泣伏した。
――こんな時かかさんがいらしったら。
五つの年に死んだという、顔もはっきり覚えていない母の事が、この時ほど恋しく思ったことはなかった。
「お嬢さま、しっかり遊ばすんですよ」
お梶は声を励まして言った。「旦那様はすぐに帰っていらっしゃいますが、それまでは貴女がこのお家の御主人なのですからね」
「でももし、もし冑が出て来なかったとしたらどうしよう」
「そんな事がございますものか、番頭さんも手代さんも、お店には大勢いるんですから、手を尽くして捜せばきっと出て来るに違いありません。そんな事は心配せずに、しっかりとお留守をなさるんです」
そんなにたやすく片附くであろうか、清吉の事といい今度の事件といい、十三の乙女の心には背負いきれぬ大きな不運である。