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びしょうじょいちばんのり
美少女一番乗り
山本 周五郎
Read 美少女一番乗り (びしょうじょいちばんのり) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 73,583 characters · 149 screens
自分で自分を励ましながら、家の軒先伝いに山門の方へ近寄って行った。
するとちょうど、お通が山門の脇までたどり着いた時、覆面をした立派な武士が、数名の捕方役人に御用提燈を持たせて、山門の前へ歩み寄るところだった。――お通がそっと小陰に隠れて見ていると、覆面の武士は仁王像の正面へ進んで、
「法心寺の仁王、――」
とさびのある静かな声で呼びかけた。
「その方は大岡越前を馬鹿者だと罵っているそうだな、木像の分際で夜ごと声を発するさえ奇怪なるに、天下の町奉行に対して悪口致すとは何事だ。町奉行は恐れ多くも将軍家のおめがねにて是非善悪を糺す役目、これを罵る事は将軍家を罵るも同然であるぞ。――身が大岡越前じゃ、何がゆえに馬鹿者であるか仔細を申せ、返答によっては木像たりとも捨置かんぞ」
天下の名奉行、幾多の難事件に当たって快刀乱麻を断つの明敏さで解決する、古今の名判官、大岡越前守が自身で乗出したのだ、――お通は思わず息をのんで見まもった。
「返答どうじゃ」
「…………」
不思議やその時、仁王像がかすかにかすかに、いかにも悲しげな声で歔欷きをし始めた。はじめは低く、次第に強くなり、訴えるような、むせぶような声が、はては高々と闇を縫って響きだした。