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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「てめえのような小娘に、あんな甘手をくったままで、眼をつぶっているお十夜じゃねえんだ。おい!」
「…………」
「御城番の膝下でさえ、夜ごとに、五人や七人の生血を塗った助広はここにある。ぶッた斬ろうと思う分には、女の一人や半分は、なんの雑作もねえところだ。それをやらねえお十夜の肚の底を知っているか?」
「…………」
「なんとかいえ。そうか、さすがにお侠なてめえも、すこウし凄くなってきたのだろう。素直に折れるなら今のうちだ。歯ぎしりしてもおれの女、溶けて添ってもおれの女。どっちにしても、この孫兵衛が、これと睨んだものを逃がしッこはねえ。いいかげんに、諦めをつけてしまえ」
一足……また、ズッと迫ってきたが、こんどはお綱、うしろへ退かずに、きりりと蘭瞼の紅を裂いた。が――声はかえって落ちついて、
「お十夜さん」と皮肉にでる。
「――ずいぶんお前も鈍ですね。エエ、なんてえ血の巡りが悪いんだろう。あれほど、私が嫌だという気ぶりをみせていたものを、自分一人でオツにとって、その腹いせだの仕返しだのッて、とんだこッちが迷惑ですよ」
「やかましいわえ、もう嫌も応も、この土壇場でいわすものか」