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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

「拙者にも思い当りはないが……なんでも、御本国の様子を探ろうとして、密かに苦心している天満浪人の何某とやらいう者もあるという噂、そいつを逃がしたのは残念だったな」

「その代りに、彼奴がこっちの姿を見かけた時、あわてて草むらへちぎって捨てた薄紙を、後で拾ってまいりました。しかし、あいにくと星かげもなく、それを読む明りに窮しますので、啓之助殿が大切に持っておられます」

こう話しあっているところへ、息を喘ぎながら、森啓之助の仲間が飛んできた。目明しの万吉と一八郎が、麓へ下る山の道で姿を見た男というのは、ちょうど、時刻から考えあわせて、この仲間であったことに間違いはない。

森啓之助が、川長へ行った日。お米の駕をつけて、時雨堂の隠れ家をつきとめたのも、啓之助の働きではなく、この仲間の気転だった。そこで、天堂、九鬼、森の三人は、各八、九人ずつの侍を連れて、この関の山に集まり、今度こそは、水も洩らさぬような手配りの下に、怪しい虚無僧、阿波の国内をうかがおうとする銀五郎、多市などを、余さず引っ捕えようとするのである。

七、八年前から、阿波の領境を封じて、かりそめにも、領土の内状をうかがおうとする者には、恐ろしく神経を尖らせている蜂須賀家では、今日までの間、銀五郎以外の者でも、ずいぶん仮借なく縛し上げて、その目的を糺さねば