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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

まず先に、顎の紐を解いて、かなぐり捨てた天蓋、ヒラ――と河へほうり投げた。

鼠木綿の手甲脚絆も、一瞬の間に解きほぐし、斜めにかけた袈裟掛絡、胸に下げた三衣袋、すべて手早くはずしてしまうと、次には平絎の帯、白の宗服、そッくりそこへ脱ぎ捨てる。

と、思うと。

かねてから三衣袋に潜ませておいた黒奉書の袷一枚、風をはらませてフワリと身にまとい、目立たぬ色の膝行袴をりりしくうがち、船底の板子を二、三枚はねのけた。

取りだしたのは藁苞である、グイとしごいて、苞からむきだされたのは、蝋色鞘の滑らかな大小。

蜂須賀家の下屋敷を探る上に、これらのことは、疾くから用意のあったこと。かくて、軽快な武士姿と変った弦之丞は、櫓仕立をしてグングンと先の船を慕い始めた。

一方は、森啓之助。そんな者がつけてくるとは夢にも知らない。

舟は矢の如く安治川を横切って春日出岸、蜂須賀家のお船蔵や下屋敷の下をさかのぼり、六軒家の真っ暗な藪岸へ着いた。

「さ、旦那、女を下から抱き上げて下さい」

仲間の宅助は、先へ這い上がって両手を伸ばした。闇にも艶な姿がズルズルと引きずり上げられる。

川長のお米は、猿轡をかけられて藪の中に横伏せとなったまま、もがき疲れたか、脛も露にグッタリとしていた。