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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「啓之助、啓之助」
呼び立てながら信国の太刀を鞘に納める。
「はっ」と一角の側へ、頭を下げたのは森啓之助。「明日の御用意のため駈け廻っておりましたゆえ、ツイお召しも知らず遅うなりまして」
こう言い訳したが、実は、密かに公務の暇を偸み、お米を隠してある綱倉に潜り込んで、何をしていたか分らない。
「明日、卍丸の脇船へは誰が乗るの?」
「石田十太郎殿の組手が乗ります」
「そちが代れ、都合がある」
「はッ」
「そして脇船の荷底へ、この一八郎とお鈴の二人、積み込んでまいるのじゃ」
「心得てござります」
「撫養の浦へ着船の節は、渭之津城へ寄るには及ばず、すぐ吉野川をさかのぼって、剣山の間者牢へ二人の奴を送りこむよう。この大役、しかと申しつけたぞ」
欣んだのは啓之助、お米を阿波へ連れこむには、本船卍丸より脇備えで行く番船の方が何かにつけて好都合。得たりや応、という色は隠して、俵一八郎とお鈴を番士に引っ立てさせお船蔵へ急いで行った。
お船歌
お鈴と一八郎の兄妹を、啓之助の手へ渡して、阿波守が席へ戻ると、三位卿は物足らぬ顔だった。
「常にご自慢のほたる斬り信国、とうとう血祭りの御用に成りませんでしたな」