Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

お綱は、それを拾って、暗闇の畳の上へ、くの字形に体を投げた。

「――喚いたところで、しようがありゃしない」

自分で自分の心にいいきかせるように。

「ジッと落ちついていれば、そのうちになんとかいい智慧もあろうというものさ……。眼が馴れてくれば暗闇でも見えるというし、夜が明ければどこからか、少しぐらいな明りが射してくるかも知れない」

こう思い決めるとともに、努めて、無駄に疲れまいと心がけた。いたずらに心身を疲らしてしまうことが、何より恐ろしいことだ、という点に気がつくほど、お綱は、取り乱していなかった。

と……。お綱の澄みきった神経が、やがて、不思議なものを感じてきた。

目に感じたものでもなく、耳から感じたものでもない。どこからともなく、忍びやかに、きわめてほのかに、プーンと薫ってきた得ならぬ香気なのである。

「おや? ……」

かれは、ハッとしてあたりの闇を見廻した。

身動きをしてすら、その妙な薫りは、掻き消えてしまいそうにかすかであった。

しかし、お綱は、その一脈の芳香に、全身の神経をあつめて不思議に思った。こんな地底の穴蔵に、あり得べからざるいい匂いが、一体、どこから流れこんでくるのだろう? ……と。