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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「どうしたの、奥は?」
「まだ寝ているんだよ」
「今日もいるつもりかしら?」
「なんだか知らないけれど、二人とも、神田で焼け出されて宿なしになったんだから、ここで正月をするっていっていたよ」
「ああ、そういえば旅川さん、あの人は駿河台とかいっていたから、ほんとに焼けだされてしまったのかもしれない」
「だけれど、もう一人のお十夜さんとかっていうお浪人、何だろうあの人は、気味の悪いお侍だね」
「額風呂へきて泊りながら、ちっとも風呂へ入らないじゃないか」
「なに、入ることは入るんだよ。だがね……それもいつでも仕舞風呂さ、そして流しの戸口を閉めきって、誰もいない時にだけ入るんだから、まったく妙ちくりんじゃあないの」
「だれ? あの人へ出ているのは」
「いやだね、まア」
「あら、お前さん」
「ああ」
「よかったね」
「おからかいでないよ、ひとを!」
「だって、まんざらな男振りじゃないじゃあないか」
「だれかに代って貰いたいよ」
「どうしてさ」
「怖くって……なんとなく怖くって」
「人みしりをする柄でもない癖に」
「だけれど、恐ろしい声をだして寝言をいうんだよ。女の名を呼んでね、そうかと思うと、人でも斬りそうな呻き声を出すし……。