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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「雪の一丈もふればいい」
と、フテ寝をしている恰好である。
「おい、周馬」
夜具の中から首をだして、こういったのはお十夜である。体を腹ンばいにして枕の上に顎をのせ、朱羅宇のきせるで、
「まだ寝ているのか」
と側にいる周馬のふとんをソッと突いた。
湯女の開けて行った小窓の障子は、こんにゃく色に明るくなっているが、世間の音もしない雪の日は、朝とも昼ともケジメがつかない。
「もう眼をさましたらどうだ」
というと、不承不承に、
「うむ? ……」
と周馬は、ふとんを猫の背のようにして、ムクムクとこっちを向いた。
総髪の毛が寝くたれて、にきびだらけの顔の脂肪にこびりつき、二日酔いの赤い目を、渋そうにしばたたいたかれの顔は、けだし女性に好意をもたれる顔でなく、いかにも手のつけられない都会の青年武士が、恋と慾の幻滅で、やけのやん八、どうでもなれという顔だ。
まだその時代には、耽溺という字がなかった。だが、そんな按配が二人の今の気持だろう。
「どうだい、お十夜」
「なにが」
「考えついたかってことよ」
「ウム、あいつか」と、煙管の口を前歯に鳴らして、
「やっと思いついた、分ったよ」