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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「へへへへへ。旦那、ご心配なさいますな、私はこれでも根岸にゃ四年も住んでおりますから、決して道に迷うなんていうことはございませんよ」
「しかし、鶯谷へ出るには、ちと、方角違いな気がするが」
「ところが、ズッと近道なんで……」グングン先に立って進んだが、やがて赤土の辷りそうな崖を上がると、闇ながら四方がひらけて、どこかを行く水の音がザアーッと低く響いている。
「ええ、寒いッ……」と男は一つ身ぶるいして、「旦那、ここはどこだか知っていましょう」
「ウム、御隠殿下であろう」
「あすこに見えるのが水鶏橋で……、あれを渡って向う岸を入りますと、古梅庵はもうじきでございます。さだめし、旅川様もお待ちかねでございましょう」
「だいぶ遅いが、周馬は宵のうちからまいっているのか」
「へえ、私がお使いに出る二刻ほど前から、奥の座敷でチビチビ飲んでおいででした」
「その周馬だけではなかろうが」
ジッと眸に力をこめて、眉間を睨みながらこうきくと、男は少しドギマギして、
「へい」と、うろたえ気味の提灯を、フイとこっちへさし出して、二ツ三ツお辞儀をした。
「旦那、まことに申しかねますが、提灯をちょッと持っていて下さいませんか……どうも尾籠なお話ですが、すこし小用がつかえまして……」