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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「アア、お隣の人ですか」と羅宇屋煙管の親爺が、なんの気もなく破れ障子を開けて言った。
「稼ぎに出る子供がいますよ、三輪ちゃんに乙坊というのがネ――。それが今朝、ひもじそうにふるえているので、よけいなおせッかいだが、お隣の飯櫃をのぞいてみると、御飯なんざ一粒だってありゃアしねえ。空ッぽだア。で――今私のところで、お茶漬を食べさせてやっているところなンだが、何か御用ですかい」
「子供じゃ、しようがねえなア」
「じゃ、親父さんを探したらいいでしょう。またお決まりの茶飯屋へでも行って、勝手な大たくらを吹いているに違いない」
「ところがよ、その紋日の虎が、どこかの侍に斬られたンだ」
「えッ、き、きられたンですか、虎さんが」
「戸板にのせて持ってきてやったのだが、それじゃ、手当てをする者もねえだろう。もっとも、どうせお陀仏になることは、相場がきまっている怪我人だがネ」
「そ、そいつア大事だ!」
と、色を失った羅宇屋の親爺が裸足で外へ飛びだした途端に、そこの家で、朝飯を貰っていたお三輪と乙吉が、手に持っていた飯茶碗をとり落して、ワーッと一緒に泣いてしまった。
その騒ぎに、長屋中が総出になって、とにかく、怪我人を戸板から移したが、近所合壁の同情は、瀕死の紋日の虎よりは、むしろ、そばにメソメソと泣いている、お三輪と乙吉の方に集まって、