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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
待つとは誰のことか分らないが、火薬袋の紐をクルクルと短銃の筒に巻いて、打ッ裂羽織の後ろへ差した最前の武士が、こういって止め合図をかけると、その露をふくんだ春草の上へ駕尻軽く下ろされて、若党らしい者三、四名、小侍が二人ほど、小膝を折って駕のまわりへズラリと休んだ。
ところで、お綱と万吉も、そこで初めてホッと息をつきながら、短銃を携えていた侍の顔をみると、なんと意外なことだろう?
それは、虎五郎が息をひきとった際に、御徒士の小池喜平と名乗って長屋をおとずれ、その場でお三輪と乙吉の養育をひきうけて行った、あの若党連れの侍であった。
「おや、あなた様は?」
思わず目をみはると、その武士はニヤリと笑って、
「先程は失礼いたした。手前は松平左京之介の家臣で、さだめし御不審に思われようが、只今、あのお方が後よりまいって、いずれ詳しいお話をいたすことであろう」と、控え目にいってそれ以上のことは口をつぐんでいる。
と、まもなく、佐竹ッ原の野道を、人影でも探すように歩いてくる武士があった。
「おお、常木様、こちらにお待ちうけ申しております」と、声をかけると、深編笠のその影がツカツカと近づいてきたが、その時、驚いたのは万吉で、常木鴻山がどうしてここへ来たのか? とただ不審に思っていた。